イギリス国営病院(NHS)看護師として働き始めて2年目を迎えた。良いところ、大変なところの両方が見えてきたところでイギリスで看護師として働くメリットとどのような人におすすめかシェアしたい。
はじめに
まず、日本での看護師としての経歴はブランクを除くと約8年で新卒で務めた総合病院以外は勤続年数が短い。それぞれの職場での経験は短いが、正社員以外での雇用で多くの職場を経験してきた。このような経験をふまえてイギリスで看護師として働くメリットをシェアしていく。
これまでの職歴
- 総合病院(正社員)5年半
- 総合病院(パート)7ヵ月
- 総合病院(派遣)4ヵ月
- 大学病院(外来)1年強
- 訪問入浴(単発派遣)2年
- 有料老人ホーム(派遣)7ヵ月
メリット
ワークライフバランスが良い
残業が少ない
職場や地域によるが、イギリスは残業はほとんどない。残業をしても数分~数十分程度で帰れることが多い。忙しければ残業することもあるが、日本と比べたら圧倒的に頻度は少ない。終わらなかった仕事は次の勤務者に引き継ぐことができる風土がある。勤務前に出勤して始業の準備をすることもない。
日本で正社員として働く場合は、残業は避けて通れない傾向がある。職場にもよるが、日本で働いていたときは30分から数時間の残業は日常的であった。
有給が消化できる
有給はすべて消化でき、取りたいときに取ることができる。私が勤めるNHSでは27日間+休日分(勤続年数による)を取得できる。土日を入れれば最大で3週間連続して休むことができ、4週目以降は無給になるが上司と相談して取得も可能だ。
私が日本働いていたときは、有給はあってないような存在だった。適度に消化するために師長が何ヶ月かに一度、一日だけ有給になっている日があった。それも希望はなし。全体的な傾向として有給をすべて消化できる職場は日本ではまれである。
休みの日に休める
休みの日は完全にプライベートの時間として休むことができる。日本の病院で働く場合は、会議・委員会・係活動・研究などの用事があれば休みの日でも出勤するときがある。
キャリアの選択が充実している
イギリス看護師のキャリアは幅広く、専門分野が細分化されているため専門に特化してキャリアアップすることができる。
病気ごとに専門分野が確立されているため、その分だけポジションがあり選択肢がある。また、退院支援や研究など臨床現場意外でも看護師が活躍できるポジションが充実している。
多くの経験と学習が求められるが、さらに薬の処方や検査説明(同意書の説明)、検査前後の診察、退院、小手術まで行うことができる。これらの経験は日本ではできないことであり、イギリス看護師のキャリアの可能性はとても高い。
教育制度が充実している
スタッフの教育支援が充実しており、勤務として必要な研修を受けることができる。狭き道ではあるが、大学院もチャンスを掴めれば働きながら進学が可能だ。こういった教育関連のコースは、予算次第だが病院負担で受けることができる。
私は2023年春から大学の短期コースを受けることになった。政府の看護師教育支援のひとつで病院の支援もあり、自己負担なし、給与をもらいながら受けることができる。
キャリアブレイクを取れる
キャリアブレイクとは、NHSの福利厚生のひとつで一定の条件を満たせば最大で5年間の休みが取れる制度だ。この制度を利用して子育て、介護、旅行、他国で看護師として働くなどに時間を充てているスタッフもいる。在籍しながら他のことに専念できる環境を確保できるのは、NHSならではの充実である。
看護師の安全が守られている
患者は持ち上げない
イギリスでは基本的に患者は持ち上げないことが前提となっていて、患者を移動をサポートする機械やすべるシートを利用して患者の移動を介助する。日本では、こうったアイテムの普及が進んでいないことや人力に頼る背景があり、腰を痛めやすい。身体の故障が原因で看護師を辞めるスタッフもいるくらいだ。
必要に応じて患者には看護助手が1対1でつく
不穏(落ち着きがなく、興奮すること)の患者や転倒リスクが高い患者は、看護助手が1対1でサポートをする。イギリスでは身体抑制(身体をベッドに縛ったり、手袋をすること)は法律で禁止されているため、看護助手が1対1で患者をサポートし患者の安全の確保に務めている。
よりケアが必要な患者がいる場合、その患者にかかりきりになり、その他の患者の元へ行きづらくなる。看護助手が集中して患者をみてくれることにより、すべての患者の安全を確保しながら働くことができる。
必要に応じて警備スタッフが対応する
前に書いたのように患者が不穏となり、他の患者やスタッフの安全が危険に晒された場合、「自分の身と患者の安全の確保」が最優先事項として徹底されている。興奮する患者を身をもって制することは危険であるため、必要時には警備スタッフに連絡し対応してもらう。
日本では身をもって患者を静止することが当たり前だったが、イギリスはスタッフと他患者の安全重視である。このときに治療に関わるチューブ類が患者によって抜かれた場合もスタッフの責任とはならない。
多国籍な職場で働ける
2022年の統計によると、NHSで働くスタッフの16%が外国籍のスタッフである。どこの病院も外国人スタッフを受け入れる体制が整っており、外国人が働きやすい環境といえる。特にロンドン中心部の病院は、スタッフのほとんどが外国人で多国籍な職場となっている。さまざまなバッググラウンドを持った人たちと働くことで異文化を学び、多様性に触れることができるのはNHSならではの魅力だ。
風通しのよい人間関係
日本のような上下関係はないため、年齢や経験の差があっても基本的にフレンドリーに同僚と関わることができる。看護業界に多い体育会系の風土もなく、先輩と話すときに気を遣うこともない。
職場で不平等、理不尽で不当な扱いを受けたときに意見を言いやすいのもイギリス(海外)の良さのひとつかもしれない。たとえば、ハラスメントや不平等な勤務の割り当てなど、問題に思うことがあった場合は積極的に声を出して良い。
患者・同僚からのハラスメントは絶対に許さないし、すぐに対応してもらえる。業務に関しては内容にもよるが基本的に聞き入れ改善してもらうことができる。日本で働いていたときは、常に耐える・我慢することが多かったが、イギリスに来てからは我慢はしないがみんなのモットーだと感じる。そういった点では、自分を優先することができる=自分を大切にしやすい環境にある。
イギリス連邦で働くチャンスがある
イギリス連邦とはコモンウェルスと呼ばれ、イギリスと旧イギリス植民地から独立した諸国56ヵ国で構成される政治的な同盟である。免許取得のしやすやは国や時代によって左右されるが、イギリスの看護師免許を持っていることで他の国でも働けるチャンスが広がる。
ヨーロッパ旅行をしやすい
イギリスはヨーロッパ諸国にアクセスしやすく、日本から比べると格安で旅行ができる。移動時間が短く、ヨーロッパ内では時差も少ないため時差ボケにもなりにくい。短期の休みでも気軽にヨーロッパ旅行を楽しめるのが魅力だ。
イギリスに来てから何回かヨーロッパへ旅行し、日本からは行きづらかったヨーロッパ諸国を訪れることができて良い気分転換になっている。
最後にイギリス看護師を目指す人向けに2つおすすめを挙げる。
低コスト・短期間でなりやすい
一般的に海外で看護師になるためには、多くの費用と数年単位の期間がかかるが、イギリスは語学試験さえ突破すれば1~2年以内に免許を取得することができる。経済的なコストと時間的コストが他国に比べて圧倒的に低い。
申請にかかる総費用については、イギリス看護助産協会(NMC)の登録費用が£1,170で約20万円のみ。現地の学校に行く、コースを履修する必要もない。2022年現在、多くのNHSでは外国人看護師受け入れのために費用負担をしている。そういった経済的なサポートを得られるのもメリットのひとつである。
ビザスポンサーをしてもらいやすい
免許とともにビザスポンサーをしてくれる職場を得られるかも重要である。国によっては永住権が必要な場合もあるため、ビザについてもリサーチが欠かせない。イギリスは看護師不足が深刻なため、免許を取得できればビザをスポンサーをしてくれるNHS病院はたくさんあるため、職に困ることはない。
こんな人におすすめ
かなり具体的になるが、日本の看護師免許を持ち、イギリスに住んでいる人で手に職に付けたい人に一番おすすめである。
ワークライフバランスを重視した生活を求める人にとってもイギリスはおすすめできる。有給がすべて消化でき、休みの日にきちんと休める環境を手に入れることが可能だ。でも、ワークライフバランスが整っているのはイギリスだけでないため、この点はイギリスならではとは言いにくい。
低コストかつ短期間で海外に看護師になりたい人にとって、イギリスはぴったりの国だ。新たに大学やコースを受講する必要もなく、申請から免許取得まで1~2年で取得できるのは英語圏の中でもかなりの速さである。
旅行が好きな人にもイギリスはおすすめだ。ヨーロッパ旅行を気軽にでき、アフリカにも足をのばすこともできる。
変わったおすすめになるが、ブリティッシュアクセントが好きな人にもおすすめ。私は以前からブリティッシュアクセントが好きでイギリスが魅力的に見えたのもある。
おわりに
日本とイギリスを比べて一番メリットといえるのは、ワークライフバランスの良さと低コスト・短期間で看護師になれることだと思う。
ワークライフバランスの面では、仕事が人生の中心だった日本での生活から、プライベートが中心の生活に変わったのが一番大きい。仕事とプライベートの両方を楽しむことができる環境にあり満足している。
対するデメリットと国営医療の現実については下記にまとめている。
参考:
世界と比較!日本の有給休暇・休日日数は本当に少ないのか?有給休暇に関するQ&Aも
NHS staff from overseas: statistics
Mari さん、お仕事お疲れ様です。お忙しい中、ブログを更新していただきありがとうございます。とても参考にさせていただいてますし、勇気をもらってます!わたしはイギリスで助産師として働きたいと考えています。プロセスが看護師とは違うのは分かっておりますが、Mariさんは日本でNMCの登録、試験対策を自力でされていると伺っておりまして、日本にいながらNMC登録から試験、OSCE 対策や医療現場の現状等、情報収集はどのように行っていましたでしょうか。わたしの場合は助産師をしている人口がそもそも看護師より少ないので情報が看護師ほどないためエージェント契約するか悩んでいるところです。
Annaさん
こんにちは。
コメントありがとうございます。
助産師を目指されているんですね。イギリスは助産師も不足していると聞いています。
看護師も助産師もプロセスは一緒で受ける試験が異なります。
情報収集に関しては、ブログにまとめているので各ブログをご覧ください。
今後、イギリス看護師を目指す方向けにレッスンを開講予定です。Annaさんは助産師を目指されていますが、役に立ってところもあると思います。またブログに随時更新していきますね。応援してます。