イギリスの医療は分野ごとに細分化が進んでいるため、看護師のキャリアも各分野ごとに細かく役職が設けられている。キャリアアップをするためは努力が不可欠であり、上に行けば行くほど競争率と難易度が上がるけが、自分次第でどこまでも目指すことができる。
日本とイギリス、看護師のキャリアアップの違い
看護師のキャリアアップにおいて、日本では当たり前であるがイギリスにはないものが3つある。
①強制されない
キャリアアップは個人の自由であり、強制されることはない。キャリアアップを望まない選択肢を取っても個人の自由として尊重される。上司から上の役職を勧められることはあっても強制されることは絶対にない。日本では経験年数を重ねると役職を頼まられることがあり、拒否する選択肢がないこともある。
②人事異動がない
イギリスでは部署ごとに採用するため人事異動がない。望まない人事異動はなく自分の働きたい分野でのキャリアアップをすることができる。
③年功序列がない
本人の実力、やる気さえあれば年齢関係なく上のポジションを目指すことができる。私の職場では20代で師長、クリニカルナーススペシャリストになったスタッフもいる。求人の応募条件を満たしていれば、勤続年数や経験年数にはこだわらず実績で評価される。
イギリス看護師のキャリア
イギリス看護師のキャリアは主に4つに分けられ、自分の興味ある分野に合わせてキャリアと職場を選択することができる。役職に合わせて給料が設定されていて、昇格すれば給料も上がっていく。以下に紹介するのは病院に勤める看護師のキャリアになるが、病院以外にもGP、コミュニティ、訪問看護などの働く場所がある。
- 臨床:師長、副師長、部長、総看護部長、プラクティショナー、ナースコンサルタント
- 教育:教育看護師、大学講師
- スペシャリスト:クリニカルナーススペシャリスト、退院支援
- リサーチ:リサーチナース、研究者
臨床のマネジメント部門では師長の上にメイトロンと呼ばれる部長のような役職があり、複数の病棟を管理している。そして部長の上には総看護部長がいて全看護職のマネジメント、経営のマネジメントに携わっている。プラクティショナーは大学院レベルで高度な臨床知識を持ち、患者の治療を始め病棟スタッフの支援も行っている。また、イギリスにはナースコンサルタントと呼ばれる博士レベルの役職が存在する。このポジションは臨床看護において最高位であり、高度な専門知識と経験を持つ看護師が担っている。
教育部門では、教育専門の看護師が常駐し新しいスタッフや新人のサポートを行う。勉強会の実施、スタッフのキャリアアップのサポートなど病院によって異なるが、完全に教育に特化しているのが特徴である。アカデミック分野であれば大学の講師という道もある。
また、私の病院にはキャリア支援を専門とする部門があり、スタッフ教育の一環として無料でキャリアカウンセリングを受けることができる。
スペシャリスト部門ではクリニカルナーススペシャリストが活躍している。イギリスのクリニカルナーススペシャリストはできることが多く、クリニックで患者を担当したり薬を処方することができる。アドバンスレベルになれば小手術、検査の同意書説明から退院までのすべてを行う。
リサーチ部門は臨床研究に携わる看護師を指す。大学などアカデミックな機関で研究者として働く看護師もいる。
イギリスのシニア師長であるロッシ真由美さんがイギリス看護師のキャリアについての解説している動画も参考にしてみてください。
イギリス看護師のキャリアアップは個人の自由が尊重され、自分の努力次第で道を切り開くチャンスがある。さまざまな役職、職場、働き方(パートなど)の選択肢があることは、ライフスタージに合わせて対応しやすく、ワークライフバランスを保ちやすい。役職に合わせて給料が設定されているため、昇格すれば数十万円単位で給料も上がる。
また、国営病院(NHS)であれば研修や大学の費用は病院が負担してくれる(病院の予算次第なところあり)。NHSはスタッフ教育が手厚く、ここまで支援を受けられる国はないのではと思う。
イギリスNHSはキャリアが多彩でありキャリアアップの支援が充実している。自分のやりたいことに挑戦し、可能性を広げられる環境が整っているのは当たり前ではないし、イギリスならではだと思う。
参考:
- What does a Nurse Consultant do and how you can become one
- Common Research Nurse Roles And Responsibilities