イギリスで看護師として働く

2022年版|イギリス看護師の給与を9つの視点から解説

イギリス看護師の給与について

「イギリスの看護師の給料ってどう?」と度々聞かれるが、日本とイギリスで給料をもらった経験からすると少し回答に迷う。それは単純に数字での比較が難しく、さまざまな視点で給料を捉える必要があるからだ。

今回は公式なデータを引用しながら、9つの視点でイギリス看護師の給料を中立的な立場で解説していく。

今回の記事執筆にあたり、さまざまな統計を引用しました。引用や計算など間違っているところがありましたらご指摘いただけると幸いです。給与に関しては随時、情報を補足しています。

イギリス看護師の給料の基本

イギリスの看護師は、バンドと呼ばれる階級によって給料が決まっている。大都市手当があるロンドンと独自の給与を定めるスコットランド以外はイギリスのどこで働いても同じ給料をもらう。

バンドと看護師の各ポジション
バンド5 ジュニア看護師
バンド6 シニア看護師、スペシャリストナース、リサーチナースなど
バンド7 師長、ナースプラクティショナー、専門看護師など
バンド8~ アドバンスナースプラクティショナー、部長、ナースコンサルタントなど

新卒の看護師はジュニア看護師と呼ばれバンド5からスタートし、シニア看護師に昇給するとバンド6となる。師長になるとバンド7、部長クラスになればバンド8となる。

新卒看護師の給料

2022年のイギリス新卒看護師の給料は£27,055で日本円に換算すると454万円(£1=167円, 2022年11月のレート)である。日本の新卒看護師の平均給与は2021年の日本看護協会の調査によると312~324万円である。

イギリス新卒看護師給料 日本新卒看護師給料
454万円 312~324万円

看護師の平均給与

2022年のイギリス看護師の平均給与は約£34,000(570万円)である。同年の厚労省の調査によると日本の看護師の平均給与は499万円となっている。

イギリス看護師平均給料 日本新卒看護師給料
570万円 499万円

新卒、平均給与ともにイギリス看護師のほうが日本より高い。数字だけ比べるとイギリス看護師の給料は日本より良いが、本当にそうなのだろうか。これから9つの視点でイギリス看護師の給与をみていく。

9つの視点からみるイギリス看護師の給与

1. 国の平均給与

それぞれの国の平均給与と比べて看護師の給与はどの位置にいるだろうか。イギリスのフルタイム平均給与は調査によって異なるが、約£31,000~34,000の間で推移している。日本2022年の国税庁の調査によると443万円だ。両国ともに看護師は平均年収以上の給料をもらっている。

2. 為替

給与は常に為替の変動に左右される。数十円の違いがまとまった給料の額になると簡単に数十万円の違いになる。今後も経済や金融政策によって為替は左右される。

ちなみに去年の11月某日のレート£1(153円)で計算すると看護師の平均給与は520万円になり、現在のレートより約50万円も安い。1年の間に為替のおかげで50万円も給与が増えたことになる。為替は日々変わり、給与は変化するため日本円換算金額は参考程度に考える必要がある。

過去をさかのぼると、2008年の金融ショックでは£1=210円だったのが130円にまで下落している。その後は円高の状況であったが、2022年は円安・ポンド高の傾向(£1=167円)で為替の影響でイギリス看護師の給与額は上昇傾向にある。

3. 税金

上記で紹介した給与は、税金が引かれる前の金額である。イギリスと日本で引かれる税金を看護師の平均給与を元に計算した。

税金 イギリス 日本
所得税 20% 20%
年金 9.3% 18.3%(半分は会社負担で実質9.15%)
健康保険料 12% 9.81%(東京都の税率)
住民税 21~64万円 ※1 32万円 ※2

※1: 税率は住む場所によって異なる

※2 税率は住む場所によって異なり、税率は年収500万円をモデルに計算している

イギリスと日本の所得税と年金はほぼ同じでイギリスのほうが健康保険料がやや高い。住民税は両国ともに住む場所によって異なり、イギリスは場所によってかなり高額になる。住民税以外は支払う税金はイギリス、日本ともにほぼ同じである。

4. 物価と物価上昇率

一般的にイギリスは日本と比べて物価が高い。ここでは首都のロンドンと東京を比較していく。物価はNumbeoを参考にしている。

一番の差は賃貸と外食でそれぞれの価格は東京のほうが約50%安い。一方で東京のほうが食料品価格はロンドンより約41%高い。ロンドンはイギリス国内でも特に家賃が高いため大都市手当が支給される。それでも看護師の給料では一人暮らしは厳しく多くがシェアハウスに住んでいる。

その他に日本より高いものとしては外食、日用品、子どもの保育料などが挙げられる。外食は地方に行くと安い傾向もなく、一回の外食でメインとドリンクを頼めば余裕で3000円は超える。

またイギリスは物価上昇が激しく、7月には10.1%へと急激に上昇した。一方で日本は8月に3%とイギリスと比べると緩やかな上昇だ。ロシアのウクライナへの軍事侵攻が物価上昇の主な原因となっている。

5. 手当

イギリスと日本のどちらも上記の給与に加えて夜勤手当、休日手当が支給される。日本はその他にもボーナス、通勤手当、住宅手当、地域手当、役職手当、扶養手当、退職金など充実しているがイギリスには一切ない。イギリスに唯一ある手当はロンドン大都市手当で場所により基本給の5~20%が支給される。

6. 昇給率

イギリスの看護師の昇給率は約2年毎で昇格しなければ、その後4~5年で昇給はストップする。ジュニア看護師のバンド5であれば£32,934(550万円)で頭打ち、シニア看護師の最大給料は£40,588(680万円)である。年次昇給が4~5年でストップするのはイギリス看護師の給与の特徴だ。

統計ではイギリス看護師の42%がバンド5であり、イギリス看護師の約4割が平均年収前後である。平均年収以上をもらうためには昇格が不可欠であり、昇格しないと一生平均年収前後ということだ。バンド7である師長や専門看護師になればより多くの給与をもらうことができるが、そこまでたどり着くのはごく一部である。

日本の昇給率は病院によってさまざまであるが、少しずつ年次昇給していく場合が多い。臨床看護師の給料はあまり変わらないと思われるが、師長クラス以上の場合はイギリスのほうが多くもらえる。

7. ライフステージと生涯年収

ここまで年単位で給与を見てみたが、ここで生涯年収に目を向けたい。看護職は女性が多く、妊娠・出産・子育てライフステージによっても年収が変わってくる。個人によって生涯年収は大きく変わるし、生涯年収の公式な統計がないため比較はできないが、ライフイベントによりフルタイムで働く期間が短くなる(=生涯年収が低くなる)。

私の経験上での話になるが、日本では時間短縮勤務が終了する時点で退職しパートに切り替える人が多い。その他にも夫の転勤や妊娠を期に専業主婦になる人もいる。病院勤務で夜勤をするとなると、体力的に厳しく30代を超えて続ける人は少ない。パートになればフルタイムと比べて給与は落ちるし、平均給与だけでは比べられない。

イギリスも日本と似たような傾向はあるが、働き方と看護師のキャリアの選択肢がイギリスのほうが多いため働き続けられる環境が整っている。どちらの国にしても女性はライフステージによって給与は大きく左右される。

8. ワークライフバランス

日本の病院勤務の場合、毎勤務1~3時間の残業は通常であり、定時に帰ることはほとんどできない。勉強会、病棟の会議、委員会、看護研究などがあれば休みの日を返上することもあり、ワークライフバランスがとても悪い。

イギリスは地域や職場によって残業があるが、日本のように休みを返上しての出勤はありえない。有給もすべて消化することが可能でワークライフバランスは日本より圧倒的に良い。イギリスと日本、両方で働いた身からすると、休みをしっかりともらえるイギリスのほうが長く働きやすい。長く働くことができるということは、それだけ安定して給与を得られるということに繋がる。

9. 海外で生活するコスト

給料とは直接関係ないが、海外で生活するコストも考慮する必要がある。たとえば、ビザ費用や一時帰国費用などまとまった出費が発生しやすい。日本に住んでいたらかからないコストが海外に住んでいるとたくさんある。

個人的な意見

ここまで9つの視点からまとめてきたが、読んだ方々はイギリスと日本の看護師の給与をどのように感じただろうか。

イギリス看護師の給与は安いのか

イギリス看護師の給与は日本と比べればそこまで安くないし、むしろ平均給与は日本の看護師を上回っている。しかし、数十万円はそこまで大きな差ではなく、上記で挙げた為替や物価などの9つの視点を考慮したら差はあってないようなものになる。結局のところ、イギリスと日本のどちらも先進国の中では看護師の給与は低い。

そもそも国の平均給与や生活コストも異なるため、単純に比較することが難しい。あくまでもその国で生活する上で十分な給料をもらえているかという視点で考えるべきで日本と比べて高い・低いはあまり意味を持たないと思う。

看護師の給与の問題点

イギリスと日本の看護師の給与の問題点は、労働に対する給与が見合っていないことだ。看護職は頭脳、身体、心を使うストレスが大きい仕事である。患者の状態を常に観察し、病院のあちこちをかけずり回り、命と向き合うため感情を消費する場面が多い。

人の命を預かる仕事であり、間違いや判断ミスが患者の命を危険にさらすことになる。レアなケースであるが、患者に何かあれば職を失い刑罰を受ける可能性もある。人が寝ている夜間帯に働くのも心身ともに大きな負担であり、新卒の時点で平均給与以上をもらうべきだと思う。

先程にも書いたように、イギリス看護師の給与問題は労働に対する給料が見合ってないこと、上昇する物価に対して給料が足りないことが原因だと思われる。人手不足のため一人あたりの仕事量が多く現場は過酷である。そのためイギリス国民の成り手が少なく、外国人看護師を受け入れて人手不足を解消しようとしている。

昨年、イギリスは新型コロナの影響で看護職への負担が増し、27,000人の看護師が退職した。外国人看護師の受け入れ拡大のおかげで看護師登録者数は過去最大に達しているが、2021年秋にはイングランドの看護師不足は47,000人と過去最大を記録している。私はロンドン市内の病院で働いているが、人が集まりやすいロンドンでも現場の人手不足は深刻である。

2022年11月、イギリスの看護協会RCNは過去最大のストライキを決行すると発表した。賃上げを求めてのストライキであり、イギリス国内で注目を集めている。給料が良ければ人手不足にはならないし、人員不足を外国人看護師に頼る必要もない。イギリス政府は看護職の給料を見直し、きちんと労働に見合った対価を支払うべきである。今回のストライキが看護職の賃上げにどう影響するか、期待したい。

引用:

参考:

ABOUT ME
Mari
Mari
日英看護師。2012年看護師免許取得。総合病院勤務を経てカナダへ医療英語留学を経験。2021年に渡英しイギリス看護師免許を取得。ロンドンNHS病院の循環器病棟に勤務。

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