働きながら大学で学ぶ
イギリス看護師2年目に念願だった大学でコースを受講することができた。
イギリス看護師の免許は、日本の看護師免許と異なり3年毎の更新をする。更新の条件のひとつには、35時間以上の学習の証明(Continuing professional development: CPD)が必須となっていて、満たしていないと更新ができない(=働くことができない)。
今年度は、政府から看護師の継続学習支援をもらえたおかげでコースを受けることができた。政府の援助だけではカバーできなかった費用は、勤務先が負担してくれたので、今回こうして無料で大学のコースを受ける機会をもらうことができた。
コース選び
いくつか自分の興味のある科目を探しつつ、コースの決め手になったのは”どこの大学で学ぶか”だった。
私が受けたコースを提供しているのは、イギリスで看護学のトップ校として知られる King’s College London(KCL) である。KCLは、ナイチンゲールが設立した世界初の看護学校を母体とする大学で、長い歴史を持ち、特に緩和ケアに強いことで知られている。イギリスで看護師を目指した頃からずっとKCLに憧れており、いつかここで学んでみたいと思っていた。
興味のあるコースは他にもあったけど、国内トップの大学で学んでびたい意欲が上回り、KCLのコースを受けることに決めた。
コースについて
コースは全4回、すべてオンラインで行われた。この形式をイギリスではワークベースラーニング(Work Base Learning)と呼んでいる。
コース概要・テキスト・課題提出のすべてが完全にオンライン化されていて驚いた。課題の提出もでオンラインですべて完結できる。生徒一人ひとりに大学用のメールアドレスが与えられ、利用することができたのも便利だった。
授業はすべて録画され、動画は授業後に学習ポータルサイトにアップされる。動画のアーカイブは、復習に便利で英語が第二言語である私にとっては助かった。
コース費用
コース費用は日本円にして20万円超え。政府と勤務先の支援のおかげで自己負担はなし。コースのある日は、すべて研修とみなし給料をもらうことができた。
コースを受けた感想
私は専門学校を卒業、学位授与機構で看護学士を取得したので、大学で学ぶことに憧れがあった。授業はすべてオンラインだったけど、大学レベルの教育を受けることができて嬉しかった。当たり前だけど、専門学校で学んだスタイル・レベル・課題のレベルもまるで違った。
そして、とにかく受けて本当に良かったと心から思う。看護学をプロとして専攻する講師から学びは、自己学習では得られない経験だった。普段はテキストとネットのリソースで勉強しているけど、詳細や科学的根拠などをカバーし切れていないことに気付かされた。そして、臨床で経験したことが知識と繋がりたくさんの学びを得ることができた。
授業はそれぞれの専門に特化した講師が担当し、授業毎に講師が入れ替わった。講師のバックグラウンドもさまざまで外国人講師も何人かいた。異国の地でアカデミックのキャリアを築いている姿を見て勇気をもらったし、イギリス看護師のキャリアの多様性をここでも垣間見ることができた。学生の出身や役職などのバックグラウンドもさまざまで、普段関わる機会がない人たちと学ぶことができたのも大学で学ぶ良さだと思う。
大学で学ぶ心得
コースを通して思ったのは、Independent learner(自立した学習者)であることが求められること。コースの詳細や課題の説明は具体的な説明はなく、すべて自分で調べて確認する必要がある。困ったときなどサポートが必要なときは、どこに問い合わせるかも自分で調べて動く必要がある。
すべて自分でやることは理解していたけど、アカデミックでの対応は初めてだったから当初は情報の見逃しに苦労した。日本の配慮のある対応に慣れていると、こういったところでつまづきやすい。
学生サポート
全4回と短いコースであったが、大学のサポートは正規生と同様に受けることができる。ITの相談、図書館サービス、精神面のサポートなどの学生サポートが充実していた。これらはすべて授業料に含まれ、サービスを利用するにあたり追加で支払う必要はない。
課題に取り組むにあたって、図書館の1対1のチューターサービスを利用した。英語でアカデミックな課題に取り組むのは初めてだったので、このサービスはとても助かった。
こういったサポートも自らアクセスしていく必要があるため情報収集は欠かせない。
コースを通して克服したこと
言語のハンデは、留学を経験した多くの人が直面することだ。私の場合、自分の専門分野に関する内容だったため、授業を受けること自体にはそれほど問題はなかった。でも、自分の意見を発表する場面では苦労した。おそらく、コースの中で英語で看護教育を受けた経験がないのは私だけで、クラスメイトが発言する度に自分との言語運用力の差を痛感した。
また、日本とイギリス(海外)では授業スタイルが異なる。日本の授業スタイルは、講師が話して生徒は静かに聞く、受け身のスタイルが基本だと思う。一方イギリスでは、講師と生徒が活発に会話し、ときには生徒同士の小さなディスカッションを挟んで進んでいくスタイルが主流。
日本の静かな授業に慣れ親しんだ私にとっては、このスタイルに慣れず、授業の流れについていくのに一苦労した。授業中は質問やディスカッションが活発に行われるため、静かにしているとあっという間に置いていかれてしまう。質問を理解して、自分の意見を考えている間にタイミング逃すことも多くあった。
こうした壁に何度かぶち当たると「私にはできない」とマインドブロック(自分で自分に制限をかけること)してしまいがちなので、恥を捨ててその都度ベストを尽くすことを心掛けた。
コースが終わったあとに、異なる研修を受けたときにはよく話せていた自分に気付き、努力すれば少しずつ前進することを身をもって経験した。
おわりに
今回、大学で学ぶ機会をもらうことができて多くのことを学ぶことができて満足している。外国人であってもこういった機会を平等に受けられることがNHSの魅力のひとつでもある。
参考リンク:

