日本の看護は世界で通用するのか
海外で看護師を目指す人にとって、日本で学び培った看護が世界でも通用するのか気になると思う。
イギリスで看護師を目指す前から、海外で働く看護師が”日本の看護は(世界で)通用する”と言っているのを頻繁にSNSで目にしていた。世界に通用するという言葉に続くのが”日本の看護は素晴らしい”で海外と日本の看護の違いにみんな関心を寄せている。
イギリスで看護師として働くようになってから”日本の看護は世界で通用する”と”日本の看護は素晴らしい”は事実だと確信するようになった。日本人看護師はどの国でも認めてもらえると思うし、患者になるなら日本で医療を受けたいと思う。
でも、イギリスで看護師として働いて3年目を迎えた頃に”日本の看護は世界で通用する”という言葉に疑問を抱くようになった。
人種の多様性に溢れるイギリス医療
私が働くイギリス国営医療サービス(NHS)は世界各国から集まったスタッフで支えられ、スタッフの国籍は200を超える。最も多くのスタッフを占めるのはイギリス人だが、2023年の統計では約5人に1人が外国籍を保有していることが明らかになっている。
引用:NHS staff from overseas: statistics
特に看護師は外国人が占める割合が多く、イギリスで働く看護師の約27%は外国人である。私の病棟だけでも20ヵ国以上の外国人スタッフが働いていて、出身国は上記の他にトルコ、日本(私)、韓国、イラン、オーストラリア、ジャマイカ、出身の看護師が働いている。私はロンドン中心部の病院で働いているので特に外国人看護師が多く、外国人看護師だけで回すシフトも日常茶飯事だ。
日々、20ヵ国以上の外国人看護師と働き思うのは”どこの国の看護も世界で通用する”ということだ。
エビデンスに基づいた看護
看護はひとつの学問として確立されていて、エビデンス(科学的根拠)に基づき研究、教育、実践されている。看護師が行う一つひとつのケアにエビデンスがあり、なんとなく良さそうだから、他の人がやっているからなどの根拠は通用しない。
どこの国も”エビデンスに基づいた看護(Evidence-based nursing: EBN)”を学び実践するので、国の財政や教育の質による差はあれど、臨床知識や技術に関しては基本的には共通のことを学んでいる。そのためどこの国の看護も世界で通用するし、その光景を毎日ロンドンの病院で目の当たりにしている。これは他の医療資格職にも共通することであり、だからこそ医療職の資格は世界中の国で書き換えが可能なのだと思う。
看護はエビデンスに基づいているためどこの国の看護も世界で通用するし、外国人看護師が世界中で働いていることを考えると、外国人看護師として働くことは決して特別なことではない。日本の看護が世界で通用するのかと疑問に思ったり、海外で働く日本人看護師から日本の看護は通用するというメッセージが出たりするのは、日本人看護師が井の中の蛙であることを表していると思う。
看護とは
看護にはクリニカルとノンクリニカルな部分がある。さきほど説明したエビデンスに基つく看護はクリニカル面で医療や看護に関する知識とスキルを指す。一方でノンクリニカル面は命には関わらないが生活上に必要なものが含まれる。
海外で働く日本人看護師が口をそろえて言う”日本の看護は素晴らしい”というのは、日本人の真面目な働きぶり、丁寧さ、思いやり、気配り、迅速に対応、勉強熱心であることなどの国民性が看護に表れているからだと思う。日本の看護はこういったノンクリニカルで秀でているものが多い。
ノンクリニカルの面はその国の文化が色濃く反映されているので国によって求められていることは異なる。たとえばイスラム教の国では食事制限、女性観、服装、祈りの時間など宗教の決まりがあり、国または人によって決まりに差があるので、その人に合った配慮が求められる。イスラムの国ではこういった配慮がなされているし、イスラム教を信仰するが多いイギリスでは患者だけでなくスタッフへの配慮もある。こういった宗教上の配慮は日本にはないものである。
本当にどこの国の看護も通用するのか
どの国の看護も世界で通用すると言ったが、外国人看護師が日本で働くのは非常に難易度が高いと思う。言語が難しいのは言うまでもなく、マイノリティとして日本で働くこと、日本人特有の丁寧さや気配りを重視する文化、休みなしで働くワークカルチャーは多くの外国人看護師にとってかなり厳しいと思う。そのような環境のなかで日本で働く外国人看護師は本当に素晴らしいし心から尊敬する。
おわりに
今回は海外で働く日本人看護師からよく聞く”日本の看護は世界で通用するのか”と”日本の看護は素晴らしい”についてグローバルな視点で捉えてみた。
エビデンスに基づく看護は世界共通でどこの国でも通用する。どこの国の看護にも独自性があり、その国の文化に合った看護が発展している。世界は広い。どこの国の看護も素晴らしい!と言いたい。
参考:
- NHS staff from overseas: statistics
- Is immigration harming the NHS?
- いま改めて考える「EBMとは」―医師がおさえておきたい、全体像や課題